デラシネのーと

けーごの雑記

保冷剤と熱帯夜 ~ペコちゃんはこの歳になってよく見るとちょっと怖い~

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気になること(問題提起)

20年来の自分の悩みとして、「問題解決能力の低さ」があります。結構致命的なエラーという気もするのですが、どうもこれは行動力の低さが遠因にあって、例えば顔色を窺いすぎるあまり気になっていたことを訊けなかったりとか、ダメージを負うことを避けるあまり虎穴に入れないという、分かりやすい臆病さが関係しているようです。そう、僕は繊細な人間なんです。

もちろんこんな風に鳥瞰できているのだし、なるだけそういった性格に歯止めをかけようと邁進する日々なのですが、この前その行動力を少しだけ試される場面がありました。

 

自宅の最寄り駅(と言っても徒歩10分くらいかかりますが)に接続する形でほど良いサイズ感のショッピングモールが構えられているのですが、その一階に不二家があります。

言わずと知れたケーキのお店で、あのペコちゃんとかいう年齢不詳の舌出しマスコットが目印不二家です。駅から出た帰路につく人々を甘い香りで誘惑し絡めとってしまおうという魂胆しか感じられない店構えとなっており、「どれ、カミさんと娘のご機嫌取りに甘いもんでも買ってくか」とばかりに、家庭内の不和の要因が自分のうだつの上がらなさであることに気付いていないサラリーマン達がしばしばお店に吸い込まれていきます(偏見)。

 

さて、先日まさにその毒牙にかかってしまい、あれよあれよという間に横開きの自動ドアを潜った際、店員さんに気になることを言われました。

 僕がその日売れ行きの悪かったらしい王道のショートケーキを判官びいき精神で購入すると、店員のおねーさんは持ち歩き用の箱を組み立てながら僕にこう尋ねました。

 

 

「お持ち歩きのお時間はどれくらいでしょうか?」

 

 

ん~?

 

この質問が妙に引っかかりました。いや、スイーツを買った際には大抵くっついてくる質問ですし、聞くのも初めてではありません。一体何を訝しむことがあるのかという疑問はもっともなのですが。

 

ただこれ、「訊いてどうすんの?」って思っちゃったんですよね。

 

いや、こんなことを書くと、「ハイハイ揚げ足取りね、じゃあてめぇは一生事務連絡だけしながら一切誰とも血の通ったコミュニケーションを取らずに寂しく朽ちていけ」と思われそうなので早めに弁明しておくと、訊いてどうすんのというのは皮肉でもなんでもなく「実際に持ち歩きの時間によって処置がどう変わるの?」ってことです。

つまり、保冷材の量が変わるとか。だとしたらいくつの保冷材で気温何℃に対してどれくらいの時間持つのかとか、マニュアルがきちんとしてるということですよね。そんな決まりがあるならぜひ知っておきたいと思ったんです。自分が保冷剤を使う時の参考にもなりますし。

それにもしかしたら、「2時間持ち歩きます!」とかいうスペシャルなオーダー専用のめちゃめちゃイカツイ保冷剤が準備されてる可能性だってあります。ゴリゴリのドライアイスみたいなやつ。

 

しかしここからが僕のチキンなところで、それを尋ねようとした矢先に後ろから別のお客さんが入店。営業妨害になるのもマズいと必要以上にビビった僕はあえなくそのまま退店し、モヤモヤが晴れないままとなった八つ当たりとして店先に置いてある1mサイズくらいのペコちゃん人形を蹴りあげてその場を跡にしました(さすがに嘘)。こうして、自分の問題解決能力の低さを痛感する冒頭の運びとなったワケです。ただいま。

 

保冷剤と熱帯夜(解決編)

さて、そんなわけで、前述のようにこの性格と決別するため、僕は翌日行動を起こしました。早い話が、二日連続で不二家に足を運んだということです。

店先で僕を出迎えたペコちゃんは「チキン野郎がまた来やがったぜ」とばかりの面差しをこちらに向け(主観)、あまつさえ舌を出して僕を嘲弄していました(主観)

あんまり大人をコケにするなよ小娘(主観)

ただまぁ入店してから「しまった」と思ったのは、店員さんが昨日と同じ人で、この人に関しては冗談じゃなく「二日続けて来やがった…ケーキが大好きな成人男性だ」という表情筋の向こう側の感情が読み取れてしまったことです(客観)。

うっせぇな悪いかよ。

ところで、一般に言われる「ケーキ屋さん」とはこの女性店員個人を指すのか、それとも不二家という大きなグループの枠組みを指すのか、この女性はケーキ屋さんの店員なのかそれともケーキ屋さんなのか、そんなことも少し気になったのですが、それはさておき本題です。僕はベイクドチーズケーキを注文し、飛んできた「お持ち歩きのお時間は?」に対して返す刀どころかむしろ食い気味に、気になっていたことを質問しました。質問に質問を返す日本人離れした無礼者と店員さんのやりとりが以下です↓

 

 

無礼者「あの、質問いいですか?変なこと訊くかもしれないんですけど」

 

店員さん「はい、なんでしょう!(はじける笑顔)」

 

(無礼者、一度ここで死にかける)

 

無礼者「……その、『お持ち歩きのお時間』って訊くじゃないですか。僕は自宅まで10分くらいなんでそれくらいって答えるんですけど。仮に、仮にですよ。例えば『今から沖縄に行きます』とか、『10時間は持ち歩きますね』みたいな大物が現れた時って、その、どういった処置になるんでしょうか?保冷剤増やすんですかね?」

 

店員さん「はい。保冷剤は、基本的に15分のお持ち歩きで1つという形で入れさせて頂いてますね。なので、かかるお時間分保冷剤を多く入れることになります。かなり遠方に行かれるということだと…その、痛んでしまうかもという風に言うかもしれないんですけど」

 

無礼者「あー…そうですよねー、となるとその、何か長時間持ち歩き用の特別な保冷剤が出てきたり~みたいなことは…」

 

店員さん「無いですね~…(苦笑)」

 

無礼者「…なるほど。大変よくわかりました、あ、変なこと訊いてスミマセン」

 

店員さん「いえ、興味を持っていただいて光栄です!こちら、保冷剤1つ追加しておきますね(笑顔)

 

 

 

行動力」とは人に迷惑をかけることでは断じてないし、「問題解決」とは別の誰かに憂鬱をバトンタッチする行為でもない。そして店員さんのご厚意を穿つことなく純度100%だと信じ切れるほど僕は純粋でもいられなかった。

現実ってやつは平凡で厳しいし、店員さんの営業スマイルは実に身に染みる。

徒労に終わった無礼な問答、人を困らせてはいけないという当然以下の社会規範…自責の念と無力感。色々なものに苛まれ、僕はチーズケーキの箱だけは振り回さないように注意しながら、走って帰った。

熱帯夜だった。

 

 

 

 

(なんだこれ)

 

 

 

 

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